「林檎の樹」(ゴールズワージー)

そんな軽薄な浮気男の話のどこがいいんだ!

「林檎の樹」
(ゴールズワージー/渡辺万里訳)
 新潮文庫

「林檎の樹」
(ゴールズワージー/河野一郎訳)
 岩波文庫

青年アシャーストは、
旅の途中に立ち寄った
片田舎の農場で、
神秘的なまでに美しい少女
ミーガンと出会う。
二人は惹かれ合い、
ある月夜の晩、
駆け落ちを約束する。
その資金を得るために
一度街へ出た彼は、
旧友と再会するが…。

すんなりお金を下ろして
ミーガンのもとへ帰っていれば、
筋書きは単なる
駆け落ち物語となるります。
しかし旧友ハリディと出会い、
彼の妹ステラと
出会ってしまったがために、
二人の運命は変わってしまったのです。
彼はステラと結婚。
あわれミーガンは
忘れ去られてしまうのです。

そんな軽薄な浮気男の話の
どこがいいんだ!と
現代であれば炎上しそうな内容です。
常に騎士道を語り、
それを意識していたアシャーストが、
どうして簡単に
心変わりしてしまったのか?

考えるべきは彼の身分です。
ミーガンに出会ったとき、
みすぼらしい格好で
徒歩旅行をしていたとはいえ、
彼は立派な貴族階級。
親に先立たれたものの遺産は十分。
大学を卒業し、
前途洋々の青年紳士なのです。

加えて同じ17歳のミーガンとステラの
魅力の違いです。
ミーガンは片田舎の村において
輝かしいばかりの
魅力を放っていたのですが、
それは都会では
色褪せてしまうものなのです。
一方のステラもまた
見目麗しい少女なのですが、
教養もあり、身分も申し分ない。
都会で生活を始めようとしていた
彼にとって、いくらミーガンと
駆け落ちの約束をしていたとしても、
ステラの魅力には
抗しがたいものがあったのでしょう。

捨てられたミーガンは?
悲しい結末を辿ります。
読んで確かめてください。

さて、本作品はいわゆる
額縁小説と呼ばれる形式です。
プロローグとエピローグに挟まれて
本編が存在する入れ子構造です。
ところがプロローグで
すでに銀婚式を迎えた
アシャーストとステラが登場するため、
本編を読み進めたとき、
アシャーストとミーガンは
結ばれないことが
読み手にはすぐにわかってしまいます。
やや興ざめに感じるのは否めません。

しかし本作品は
筋書きを楽しむものではないのです。
美しいものに出会い、
素直に感動している
純粋な青年の心の動き、
そして別の美しいものと巡り会い、
悩みながらも揺れ動く
未熟な青年の心の迷いこそ
読み取るべきものなのでしょう。
中学校3年生に薦めたい一冊です。

※美しい2人の美少女の
 どちらをとるか。
 男であれば
 そんな立場に立ってみたい。
 羨ましい限りの
 アシャースト青年です。

(2020.8.5)

Free-PhotosによるPixabayからの画像

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